価値ある資源を次世代へ!金(ゴールド)リサイクル工程の基本と最先端技術
近年、「都市鉱山」という言葉をよく耳にするようになりました。これは、使用済みの家電や宝飾品などに含まれる貴重な金属資源を指す言葉です。特に**金(ゴールド)**は、その安定した価値から、リサイクルの主役の一つ。
金のリサイクルは、単に資源を再利用するだけでなく、新たな採掘に伴う環境負荷を減らし、資源の少ない日本にとって経済的な安定をもたらす重要な取り組みです。
ご家庭にある古いアクセサリーや使わなくなった電子機器が、どのようにして再び純粋なインゴットや新しい製品に生まれ変わるのか、その複雑で奥深い工程の基礎知識をわかりやすく解説します。
1. 金リサイクルの全体像:3つの主要なステップ
金のリサイクルは、大きく分けて**「回収と評価」「前処理と溶解」「精製(純度向上)」**という3つのステップを経て行われます。
1-1. 回収と評価(貴金属スクラップの受入)
リサイクルの出発点は、貴金属スクラップと呼ばれる原料の収集です。
原料の種類: 主にジュエリー(貴金属アクセサリー)、工業用スクラップ(電子基板、歯科材、めっき廃液など)があります。特に電子基板は、天然の鉱石よりも高濃度の金を含んでいることが多く、「都市鉱山」の中心的な存在です。
均一化(前処理): 集められたスクラップは、そのままでは分析しにくいため、まず均一な状態にします。具体的には、粉砕して微粉末にしたり、溶解して液体にしたり、高温で溶かしてインゴット状に吹き固めたりする工程が含まれます。
分析と評価: 均一化された原料から一部を採取し、蛍光X線分析装置や化学分析(試金)を用いて、含まれる**金の含有量(品位)**を正確に測定します。この分析結果が、リサイクル後の地金返却量や買取り価格の根拠となります。
2. 金を分離・抽出する化学の力:溶解と還元
金は化学的に非常に安定した金属で、一般的な酸では溶けません。しかし、リサイクルにおいては、他の金属(卑金属)や不純物から金だけを分離する必要があります。
2-1. 貴金属を溶かす「王水(おうすい)」
金を含むスクラップを溶解するために、非常に強力な酸である王水が用いられることがあります。
王水とは: 濃塩酸と濃硝酸を3対1の体積比で混合した液体です。「王の金属」である金すら溶かすことから、この名が付きました。
溶解の仕組み: 濃硝酸が金を酸化して金イオンにし、濃塩酸が金イオンと結合して錯体を形成することで、金が溶液中に安定して溶け込む状態を作り出します。
湿式精錬: このように、水溶液(酸)を使って貴金属を分離・精製する手法を「湿式精錬(しっしきせいれん)」と呼びます。
2-2. 溶液から金を取り出す「還元」
王水で金が溶け込んだ状態(金イオン)になったら、次に**「還元剤」**と呼ばれる物質を加えて、純粋な固体の金として析出させます。
還元のプロセス: 金イオンに電子を与え、再び固体(金属)の状態に戻す化学反応を利用します。
金の粉末: この工程で析出した金は、茶色の微細な粉末(金粉)となり、溶液から濾過して取り出されます。この段階で、すでに99%以上の純度に達しています。
洗浄と乾燥: 取り出した金粉は、残っている薬品や不純物を除去するために洗浄され、その後乾燥させます。
3. 純度を極限まで高める「最終精製」
還元で得られた金粉は高純度ですが、さらに純度99.99%(フォーナイン)以上の地金にするために、最終的な精製工程に入ります。
3-1. 電解精製法
現代の工業的な金のリサイクルで主流となっているのが、電気分解の原理を応用した電解精製法です。
仕組み: 粗金(純度の低い金)を陽極(プラス極)、純金箔を**陰極(マイナス極)**とし、特殊な電解液に浸して電気を流します。
分離: 電気を通すと、陽極の粗金が溶け出し、純粋な金だけが陰極の純金箔の表面に付着して堆積します。銀などの不純物は、電解液に沈殿するか、溶けずに陽極泥として残り、極めて高純度の金だけが分離されます。
3-2. 鋳造と製品化
精製された純度99.99%以上の金は、溶解炉で溶かされ、**インゴット(地金)**の型に流し込まれます。
インゴット化: 冷却して固めたインゴットには、純度や重量、そして精製した会社の**刻印(ブランドマーク)**が打たれ、再び市場へと供給されます。
水平リサイクル: このようにして回収・精製された金は、品質を損なうことなく、アクセサリーや電子部品など、元の製品と同等の用途に再利用されます。これを「水平リサイクル」と呼び、資源循環の理想的な形とされています。
金のリサイクル技術は、年々進化しており、微量な金も効率よく回収する技術が開発されています。これは、地球の貴重な資源を守り、持続可能な社会を実現するために欠かせない現代の錬金術と言えるでしょう。
ご自宅に眠っている金製品や古い電子機器が、実は未来の資源として大きな価値を持っていることをご存知りでしたか?